ファッション業界にいる方なら、 一度はスズキ タカユキの名前を聞いたことがあるでしょう。
自身の名前を冠した suzuki takayuki のレディース、メンズコレクション。
それ以外にも彼のクリエーションをアウトプットする機会は多く、
アーティストの衣装デザインから、空間デザイン、舞台でのパフォーマンス など
幅広く活動しているクリエイターです。
現在、東京と北海道根室の二拠点をベースに生活するスズキ氏に
東京⻘山のプレスルームでインタビューしました。
「あえて凄くわかりづらく作ってるんです」
- スズキさんのことをよく知らない方の為に、自己紹介からお願いしてもいいでしょうか?
僕はファッションデザイナーとして 20 年弱、洋服を作る仕事をさせていただいています。
とはいえ、僕は他のデザイナーの方々とはちょっと違っていて、
元々ファッショ ンを勉強してきたわけではなくて、
美術系の大学で洋服とは違うことを勉強していたので、舞台衣装や、空間演出だったり、
最近では自分がパフォーマンスをさせていただいたりしています。
洋服のデザインをするだけではなくて、布や衣服に関わる
色んなことをやって いるっていうのが僕の分かりやすい特徴です。
あとは、生地の質感や肌触りとか、気持ちに訴えかけられる物を洋服に限らず作っています。
- 大学は造形大学ですよね。 どんなことを学ばれていたんですか?
僕、こう見えてグラフィックを勉強していたんです。
だから洋服とは全然関係なくて。
そもそも立体じゃないっていう(笑)
- 何がきっかけで布を使って、立体の物を作ろうと思ったんですか?
在学中に仲の良かった友人と二人で
「自分達が感じているエネルギーみたいな物を作品として出したいよね。作品展やりたいよね。」
という話になって、彼が靴を作りたいと言うから、
そしたら僕は洋服作ろう!そうすれば併せて展示できるね!
っていうところからですね。
全く洋服を作った経験がなかったんで「はじめてのソーイング」っていうような 名前の
一般の方が読む洋服の作り方の入門書を買って読んだのが始まりです。
洋服は元々好きだったので、自分の洋服を解体し抜い直して、作り方を考えたり してました。
- 完全に独学ですね!その後、服飾学校には通われなかったんですか?
通わなかったですね~。通えばよかったんですけど。
今は周りに優秀なスタッフもいますから(笑)
- 固定概念がなかったからこそ、今の suzuki takayuki があるんですね。
他のブランドとの違いを一言で言うとしたら何でしょう?
ブランドのコンセプトとしては「時間と調和」とあるんですが、
それだとちょっとわかりにくいと思うので・・・
- 二言三言でも大丈夫です(笑)
そうですか(笑)
「古くて新しくて。可愛くてかっこいい服。」
素材感にこだわった服っていうのが一番わかりやすいかもしれないですけど。
中々難しいですね。
実は、あえて凄くわかりづらく作ってるんです。
うちのブランドは系統としては、素材感にもこだわっているんで
ナチュラル系といえばナチュラル系かもしれないですね。
でもナチュラル系のブランドと一緒に扱うと、うちなのか、他のブランドなの か・・・
のどちらかが売れないんです。
優しそうに見えて、そこまでは優しくない服なんです。
わかりづらい服。
表現が難しいんですけど、わざとそうしてるんです。
さっき言ったみたいに「シャープとソフト」とか
相反する要素がバランスギリギリで入ってるっていうか。
様々な要素が混在している感じです。
だから、ある種、誰にでも似合う服なんです。
そのうちのどこかの要素が似合うんで。
それが着る人にとって何らかの引っかかりになって、残っていく。
ちゃんと考えた、消費されすぎない服でありたいなと。
お客様も 20 代から 80 代まで幅広いです。
全然一言じゃないですね(笑)
- インドネシアで日本とは別のラインのレディースを展開されていますよ ね?
どういう思惑で始められたんですか?
向こうでブランドをやっている人達と一緒に物作りをしているんです。
日本とは違うものとして考えています。
元々は アジア各国とのデザイナー交換のような取り組みがあって、それでスタートしました。
ただ、当時色々と問題があって。
日本からインドネシアには衣料品の輸出はできないとか。
向こうで物を売ることは販売権がないとできないとか。
それで現地の方と一緒に物作りを始めました。
インドネシアは特殊な風土なので、季節が全部夏じゃないですか。
あとは大きく違うのは宗教ですね。
インドネシアはイスラム教なので。
そういう背景もあり、日本とは切り離してインドネシアの中で展開していて、
これからも続けていきたと思っています。
photo by Ryo Mitamura
「僕たちはひたすら物を作ってエネルギーを爆発させてます」
- 仕立屋サーカスの動画を拝見して、かなりインパクトを受けたんですが、
「舞台」と呼んでいいでしょうか。伝えたいこととは?
そうですね。
平たく言うと「舞台」ですね。
正直言うと何を感じていただいてもいいと思ってるんですけど、
あれって音もそうですし、僕もそうなんですが、時間の中でひたすら物を作っている舞台なんです。
物を作っていく瞬間のエネルギーが饒舌に何かを語っているというか。
それが何か一つの形になるんじゃないか、っていうコンセプトなんです。
更に言うと、その作っていくエネルギーを僕たちだけじゃなくて、
一緒にいる方達にも感じていただきたくてやっています。
今 4 年目なんですが、公演は増えていて、お子さんもたくさん見に来てます。
昼間の公演の前列はほとんど子供ですよ。
同時進行でいろんなことが行われているので、お客様には好きに見て欲しいと思っていて、
白い布の上でゴロゴロ転がってる子供もいれば、
天井の光をずっと 見ている人、
音楽に聴き入っていたり、
寝ている人もいる。
見る箇所が多いので、子供にとっては飽きないかもしれないですね。
そんな中で、僕たちはひたすら物を作ってエネルギーを爆発させてます。
最近は毎年ヨーロッパ公演をスペインとフランスの南の方で行っているんですが、
ヨーロッパも子供は多いですね。
やってる内容はまぁまぁシュールなんです が、みんな飽きずに最後までいてくれます。
僕らがやっている「作っているところを人に見せる舞台」というのが、
100 年とか1000年後 くらいに、一つの新しいジャンルになったら面白いかなと思っています。
「洋服って最初の自己表現だと思うんです」
- このタイミングで子供服を作ってみようと思ったきっかけはなんだったん ですか?
演劇団体マームとジプシーの藤田貴大君がやっている
「めにみえない みみにしたい」
という子供も大人も一緒に楽しめる公演があるんですが、
その衣装を僕が担当させてもらっていて、その公演のチラシの撮影で小さい女の子用に衣装を作ったんです。
そしたら、その女の子も、周りの大人達も喜んでくれて。
それがすごく良かったんです。
「着る」っていうことって、すごく身近な体験だと思うんです。
着ることで感じられることっていっぱいあるなと思っていて、
大人にとっても 大事な体験ですけど、子供が着たら、
それってもしかしたらもっと大人以上にすごい体験なんじゃないかなって。
うちの服って、さっき話したように幅広い年齢の方に着ていただいているんで、
今まで子供がなかったのが不思議なくらいなんですよね。
着るっていう体験をたくさんの人にしてもらいたい、とその瞬間にスッと入ってきたんです。
それで子供服を作ろうと思いました。
大人よりも素材のことをデリケートには考えてはいますけど、
子供だからどう だっていうのはなくて、いつも考えていることを子供のサイズにして作っているので
「大発見があった!」ということはないんですけど。
子供服を作るのはすごく面白かったですよ。
子供の服を作ったことで、自分の幅も少し広がった気がします。
これは初めて話すんですけど。
僕のブランドはレディースから始まっているんです。
なんでレディースからかっていうと。
こんなこと言ったら怒られちゃいそうですけど・・・
僕、自分が男だからか「おしゃれしすぎている男の人」ってカッコよくないなと 思っちゃうんです。
服だけじゃなくて、色んなことにこだわっていて、
自分のスタイルで洋服を着ている男の人はすごくかっこいいと思うんですけど。
だからレディースから始めました。
15 年前くらいになりますが、スタイリストの北村道子さんと、よく一緒に仕事させていただいていたんです。
その時に北村さんに
「スズキは世界を作っているんだから、レディースだけっておかしいよね。
女がいて、男がいて、世界が成立してるじゃない。だからメンズも 作ってみたら」
と言われて、そこからメンズを作り始めたんです。
ここで今子供が加わって、また世界が広がって、成立し始めた。
ストンと落ちた感覚です。
ブランドって価値観だと思うんで、その価値観を作って共有して、
どうやって素晴らしい世の中にしていくかだと思うので、
今回の企画は本当にいい機会でした。
全く無理な感じがなかったですね。
- 商品を拝見させていただきましたが、媚びてない感じがいいですよね。
意外と子供は子供じゃないなって、感じてます。
言葉や表現の手段を知らないだけで、子供は子供なりに凄く色んなことを感じているような気がして。
一つの存在としては、あんまり大人と変わらないなって思っていて、
だから洋服も子供用に作ろうとは思わなかったです。
子供サイズ、子供に向けて、と考えて作りました。
- 子供って知らないだけで、知ることで知識や選択肢はどんどん広がっていきますよね
本当にそうですよね。
僕はまだ子供がいないので、そこに関しては少しリアリティのない部分もあるのですが、
「自分が何かを選択していく前の段階で、いろんな物に触れて感じて欲しい。」
ということを強く思っています。
例えば先ほど話した仕立屋サーカスの公演では 常に18 歳以下無料にしています。
何を選ぶかは子供の自由ですが、色んなことに触れて選択肢が広がることは
いいことなんじゃないかと思ってます。
洋服って最初の自己表現だと思うんですけど、
2 歳の女の子でも「これがいい!これは嫌!」とか、
主張できるのってすごいなって思うんです。
面白いですよね。
そこにアプローチできるっていうのは、自分としては大事なことだなって思います。
photo by Ryoko Takahashi
「今の方が自分にとっていい仕事ができていると思う」
- 私が個人的にも気になっている北海道生活について聞いてもいいですか?
結婚してしばらくは東京にいたんですが、妻は京都出身で僕も東京が実家なわけではないので、
ずっと東京にいるつもりはなかったんです。
東京は流れが速いので。
そんな時に、ジュエリーデザイナーでフライフィッシングが趣味の友人が釧路 に釣りに行った帰りに、
根室でも釣れるよと聞いて根室を訪れたんです。
あまりにも根室が良すぎたようで、彼は趣味と実績を活かして根室に引っ越してしまったんですよ。
それ以来、やたらに根室に遊びに来いと誘われるんで、妻と旅行で遊びに行った ら・・・凄く良くて!
妻も「ここに住んでみたい!」というので根室に引っ越しました。
僕は仕事もあるので 拠点を完全に北海道に移したわけではなくて、1/3 根室、あとは東京ですが。
- ピンときちゃったんですね。
そう。でも今ってすごい時代だなって思ってて、ネットがあるじゃないですか。
羽田から根室の最寄の釧路空港にも日に何本も便が出てるし。
宅急便も東京から早ければ翌日届くんですよ。
どこでも何とでもなるっていうか。
だから不便と感じることはないですよ。
- 根室のどこに惹かれたんですか?
風景ですね。
北海道は真ん中から東側はあまり開発が入っていないので大体草原。
根室には、ほぼ何もないんですよ。そこがすごく良い。
緯度が高いので、光が斜めに入ってきて北欧みたいな雰囲気で、
植物も高山植物など見たことのないものが多かったり、不思議な風景です。
時間の流れが東京とは全然違うんですよ。
生活には困らないんですが、無駄な消費はしないです。
食べる物も、本当に自然のものや、誰が作っているか分かるようなる物しかないのがいいです。
何となく良いものっていうよりは、洋服も同じなんですけど、
人がちゃんと考えて作ってくれたものが食べられます。
あとは、野生動物がすごい近くにいますね。
ヒグマは出会っちゃったら大体アウトですけど。
エゾ鹿とか、大きい鳥類がたくさんいます。
厳しい自然が近いので、
「ああ。生きてるわぁ。」
ってことをより意識できるようになりました。
- 仕事のスタイルを変えてみて、どうですか?
仕事数としては正直以前に比べて減ってると思います。
断る仕事が増えていっているのも事実です。
でも、今の方が自分にとっていい仕事ができていると思うし、規模も大きくなってきています。
まだまだ弱小ですが(笑)
意固地になっちゃダメだし、守りに入っちゃダメだけど、自分が納得したことをしたい。
嫌われてオッケーと思ってます。
もちろん皆んなに嫌われたら凹みますけど(笑)
でも、変に好かれる必要はないし、誰からも好かれようと思って何かするのも違うなっ て。
それは多分僕が少し大人になったのかも。
昔からそうだと言えばそうだけど(笑)
でも、ちょっとだけ大人になりました(笑)
- 自分らしくいたいですよね。人生短いから。
人生は本当に短い!
でも僕一応 120 歳まで生きる予定なんで(笑)
人生 1/3。まだまだ若手ですよ(笑)
suzukitakayuki/スズキ タカユキ
1975 年愛知生まれ。
東京造形大学在学中に友人と開いた展示会をきっか けに
映画、ダンス、ミュージシャンなどの衣装を手掛けるようになる。
2002-03A/W から suzuki takayuki として自身ブランドを立ち上げる。
http://suzukitakayuki.com/wordpress/